前回、「広くて強い商標権」を取るためには、どのようにすれば良いか、具体的なお話をするといって結局抽象的な話で終わってしまったので、今回は具体例を挙げて説明していきたい。
とは言っても、「広くて強い商標権」というものは、個別の事案・事情に応じて異なるものであり、本当に「広くて強い商標権」か否かは結果論的なところがあるので、本コラムで提供する内容は、あくまで出願時に検討できる事情の中で、多くの場合に当てはまるであろう検討材料を提供することしかできないので、その点は御了承いただきたい。
まず、商標権という権利については、「商品」と「商標」の2方向から考える必要がある。
これは、5月19日の「商標権とは」の記事を読めば、お分りいただけると思う。
つまり、商標権の権利というものは、独占的に使用できる専用権と、他者の使用を排除できるに過ぎない禁止権に大別できる。
そのうち、専用権とは、「指定商品・指定役務と同一の商品・役務」が前提であり、その上で「登録商標と同一の商標」である場合に権利の効力が及ぶ。
そして、禁止権とは、①「指定商品・指定役務と同一の商品・役務」が前提で「登録商標と類似の商標」か、②「指定商品・指定役務と類似の商品・役務」が前提で「登録商標と同一の商標」か、③「指定商品・指定役務と類似の商品・役務」が前提で「登録商標と類似の商標」である場合に権利の効力が及ぶ。
このように、専用権も禁止権も、指定商品・指定役務が、同一か類似の商品・役務であることが前提となっている。
ということは、「商品」については、「指定商品・指定役務と同一・類似の商品・役務」に権利が及ぶことを考慮して選択する必要がある、ということになる。
この選択には、類似群コードというものを利用するのが便利であるが、類似群コードについては、6月23日の「商標法における商品・役務とは」の記事の中で説明してあるので確認していただきたい。
類似群コードによれば類似商品の範囲が分かり、どのような商品を選択すれば良いかは、特許庁の「類似商品・役務審査基準【国際分類第9版対応】」(http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/ruiji_kijun9.htm)を参考にすると良い。
このページには、第1類から第45類にまで区分された各商品を調べることができ、権利範囲の前提となる商品と役務が列挙されている。
第1類から第45類にまで区分された各商品・各役務を調べなければならないのは、商標権における商品や役務というのは、第1類から第45類にまで区分された各商品・各役務のことをいうからである。
但し、気を付けて頂きたいのは、上記ページから閲覧できる各商品・各役務は、あくまで例示に過ぎないということだ。
これは何を意味するかというと、6月23日の「商標法における商品・役務とは」の記事の中でも説明したように、ここの掲載されている商品・役務が、出願の願書に記載することができる商品・役務の全てを表しているわけではない。
つまり、世の中には、この区分表に掲載されていない商品・役務も存在するし、掲載されている商品・役務であっても現在は存在しない商品・役務もある、ということだ。
従来に無い新しい商品が開発されたり、技術の進歩によって使用されなくなった商品があることを考えて頂ければ分かり易いかもしれない。
そのため、参考として利用できるに過ぎない。
ということは、「広くて強い商標権」を取得できるか否かは、ここが分かれ道になることを意味する。
安易に適当な商品・役務を選択してしまったばかりに、権利行使できなくなることも考えられなくは無い。
つまり、適切な商品・役務を選択できるか否かが、将来の権利に大きく影響するのだ。
なぜなら、独占的に使用できる範囲は、同一の商品・役務に限られ、この商品・役務を基準として、これに類似する商品・役務の範囲で第三者の使用を排除できる範囲が確定するからである。
例えば、商品を「泡盛」と選択したとする。
この「泡盛」は、第33類の商品であり、類似群コードは「28A01」である。
類似群コードによれば、同じ「28A01」が付けられた「合成清酒、焼酎、白酒、清酒、直し、みりん」は互いに類似する商品であることが分かる。
つまり、専用権としての「同一の商品」といえるのは「泡盛」だけであり、禁止権としての「類似の商品」といえるのは「合成清酒、焼酎、白酒、清酒、直し、みりん」ということになる。
但し、これら「泡盛、合成清酒、焼酎、白酒、清酒、直し、みりん」の各商品は、上位概念である「日本酒」で表すこともでき、「日本酒」を選択した場合の専用権は「泡盛、合成清酒、焼酎、白酒、清酒、直し、みりん」の全ての商品ということになり、これが最も広い権利範囲ということになる。
但し、商標法上区分されている商品が、権利行使の際にそのまま適用されるかというと、必ずしもそうでない場合も有る。
区分表の上では、「日本酒」が上位概念的な表記であると記載されているからと言っても、「日本酒」と「泡盛」とは別々の商品なのだから、「泡盛」が「日本酒」に包括される商品ですと言われても、何か不自然な気もする。
商標権を取得する目的が権利行使であれば、権利行使をする際に、権利行使を受ける側に反論する余地を与えない権利が、最も強い権利であると考えることができる。
そうすると、区分表に、「日本酒」が上位概念的な表記であると記載されていることを知らない人からすれば、「日本酒」と「泡盛」とは違うじゃないか、と言いたくなるかもしれない。
誰に対しても反論する余地を与えない商標権を取得すれば、無用な紛争を回避できる最も強い権利と言えるかもしれない。
特許庁の立場としては、「泡盛」の商品について権利を取得したければ、その上位概念である「日本酒」を選択すれば「泡盛」を含むものとして審査します、と言うだろうが、本コラムで言いたいことは、自分の権利となる範囲は自らの責任で選択するのであるから、区分表を鵜呑みにすることなく、専用権、禁止権という範囲を意識して「広くて強い権利」を考えてもらいたい、ということだ。
長くなってしまったので、「商標」は次回に説明する。
弁理士 大久保秀人
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